石井礼子展 −私の周囲−

■略歴  

1974 神奈川県藤沢生まれ
女子美術大学大学院(洋画専攻)卒業
1983 田沢茂先生(新制作会員)の児童画教室に通い始める
1985 毎日新聞主催パン食普及協会主催のコンクールにて 秀作賞を受賞、
ハワイに招待される
1986 交通安全絵画展にて神奈川市長会賞受賞
1987 藤沢市花と緑の町作りポスターコンクールにて金賞を受賞
1988 朝日新聞主催住まいの絵コンクールにて建設大臣賞を受賞
1989 湘南年賀状コンクールにて特定郵便局賞を受賞
1991 全日本年賀状版画コンクールにて特選
1994 第44回藤沢市展にて市議会長賞を受賞
1996
第60回新制作展に初入選
(以降、1997年、1998年、1999年、2000年連続入選)
1997 女子美術大学卒業制作賞を受賞
第47回藤沢市展にて協会賞を受賞
1998 藤沢市美術家協会会員になる
ロータリアン賞候補美術展にて関内ギャラリー賞を受賞
2000 第64回新制作展にて新作家賞を受賞(01、02年同賞受賞)
2001 新制作協会会友となる
新制作絵画部受賞者作家展(銀座・東京)
2002 新制作絵画部受賞者作家展(銀座・東京、同03年)
佐藤国際文化育英財団10周年記念美術展(佐藤美術館)
神奈川新制作展(関内・横浜市民ギャラリー)
2003 神奈川女流美術家協会会員になる
女子美制作研究奨励賞受賞
Nicaf ソウル国際女性アート・フェアーに出展
2004 新制作協会会員となる
【展 覧 会】
1994 ART SPACE CORE企画展「第8回EGGS.」
       〃         「ご通行中の皆様の為の展覧会」
1995
女子美アートプラザ学生自主企画展 2 「収 蔵」
1996 女子美祭展示作品選抜展「日常の中の表現 2」
「彩花5人展」 関内パルコにて
1998 「女子美術大学大学院6人展」銀座ギャラリーにて
1999 「JIN SESSION9 VOL.2」GALLERY JINにて
2001 「青い雲の会」展
「石井礼子展-私の周囲-」(世田谷・潺画廊 )
2002 「近・現代日本墨画考2002」(世田谷・潺画廊 )
2003 「石井礼子展-私の周囲-」(世田谷・潺画廊 )
茅ヶ崎市美術館企画展
2004 「Exhibition 懐起源」(世田谷・潺画廊 )
2005 辻堂アートスペースキテーネにて個展
「Exhibition 懐起源」(世田谷・潺画廊 )
「石井礼子展-わたしのまわり-」(平塚市美術館・神奈川)

【コメント】 

麻紙に墨で描きます。割り箸で描き、細部に関しては爪楊枝を使っています。2001年、新制作へ出品した作品では、50本位の割り箸を使いました。この描き方は小学校4年生の時から通い始めた田澤茂先生(新制作会員)の絵画教室で教わった方法です。さまざまな事柄、色が溢れている現代をモノクロームの世界で描くことで、自分がリーダーになれるような気がして、白黒の画面にこだわっています。

石井礼子

彼女の作品を一目見てとても気に入りました。これからも時間をかけてじっくり、展覧会をしていこうと思っています。彼女の体が不自由なのは、生まれつきではなくて、後年病気になってからなんです。

・・・お身体が不自由で絵を描くのは大変だと思いますが、それでも彼女が絵を描く理由をどのように思われますか。
生きているからではないですか。それが未来に繋がっていく。生来彼女はとても絵を描くのが好きだということ。そしてもう一つは、彼女の病気はめまいを伴うものだから、それを止めたいというのが、原点にあるのではないかという気がします。彼女のいろいろに変化する視線は、真似できるものではない。それが素晴らしいと思うんですよ。絵というのは、自分の身の回りを描くことから始まるもの。生活と制作が一致しなければ、見る人間はリアリティーは感じないものなんです。

・・・生活と制作が一致するという観点から、故中原淳一先生の「私のお部屋」という作品との、コラボレーションに繋がったのでしょうか。
身の回りから言えば、中原先生の作品は、戦争が終わってから描かれたものだから、当時は何もない時代でした。それでも少しだけ先の未来の夢を見たいと思ったものです。その夢を氏は絵で叶えている。逆を返せば現代の飽食の時代は、沢山の物に囲まれた豊かな生活がある。これを甘受するか危機と思うか。それは人様々なのだろうけれども、どの時代においても、心豊かに生きるというのは、等身大の自分の立ち位置を把握して、夢や希望を持って生きることだと思うのですよ。ですから今回このコラボレーションは、自分自身を見据える事が出来る作家の、「ちょっとだけ、さきの夢」を紡ぎ出す展覧会なんです。

潺画廊 郷倉氏

・・・日常生活をテーマにした作品を初めから描かれているのでしょうか。
はじめは自分とはいったい何だろう。それを突き詰めて描いていました。

・・・作品の中には、必ずご自分が登場しているように見えますね。例えば猫の姿になって、ご自宅では、猫を飼ってはいらっしゃらないそうですが、描かれている猫は、ご自分の分身のようなものなのでしょうか。
そうです。猫は自由に歩き回れるからです。近所に猫がいっぱいいるんですよ。ベランダまであがって顔をのぞかせます。

・・・そういえばこの作品は、右側から猫の目線のように、覗き込んでいますね。でも上からのぞきこんだ俯瞰した構図で描かれているのは、何故ですか。
地面に安定していたいからなんです。

中原淳一

・・・周りにご家族がいることで、自分自身の存在の位置づけを確認されてるような気がします。このスタイルの作品を描きはじめたきっかけを教えて下さい。
きっかけというか、物が氾濫している中で生活しているので、もっと順序だてたいというか・・・。

・・・写真は使わないですべて手で描いているのでしょうか。
お母様:写真は使っていますが、実物のものを見て、そのまま描くこともあるんです。描いてるときには、パッケージやペットボトルの類まで、周りの物を全部捨てないでくれと言われています。家の中に物が山のようにあふれてしまって、今日はあれを描くからと、また出してきて並べて描くんです。それらに囲まれていたいというのか。整理したいんだけれども、落ち着く感じがするみたいです。

・・・落ち着くのは、物に付随する記憶みたいなものに囲まれていたいとい気持ちが、強いのかもしれませんね。それは新宿のゴールデン街を取材(平凡パンチのタブロイド判に掲載)された作品にも垣間見えるように思うのです。ゴールデン街はごちゃごちゃした町ではないですか。
お母様:ごちゃごちゃした感じが、自分の今までの生活とよく似ているからじゃないですか。だからあまり違和感がなかったみたいです。

・・・ごちゃごちゃした中にエネルギーが充満しているような感じを受けますよね。石井さんの作品との共通項はかなりあると思います。ゴールデン街は、街自体が記憶を持っていて、人の思いみたいなものが積層している。石井さんの描かれる作品の中にも同じ要素が入っているように思うんです。街でも物でもそこに宿る記憶が、雲散霧消してしまえば、自分自身も消えていくような無常を感じるといいますか。ところで、絵を描くきっかけを教えて下さい。
お母様:お友達に誘われて、お絵描き教室についていったことからなんです。ピアノなどのお稽古ごとは、じんま疹ができるくらい駄目だったんですよ。絵であれば何時間でも描いていたい子供でした。教わっていたのは、公民館みたいな場所だったんですが、最初から最後までずっと描き続けて、家に帰らない子供でしたね。その時に教えてくださった先生が、新制作協会会員の田沢茂先生でした。先生はとても可愛がってくださって、色んなコンクールに応募してくださって、ものすごく様々な賞を受賞することができました。それがとても嬉しくて、また絵に没頭するんです。その繰り返しで、ハワイにまで連れて行ってもらったことがあるんですよ。もうやめようかなと思うと大きな賞をいただいて、高校卒業するまで、先生のアトリエにおじゃまして教えていただいていました。それから一年浪人して、女子美術大学に入学したんです。ですから子供の時に教わった田沢先生の影響は大きかったと思いますね。割り箸で描くのも、先生から教わりました。女子美では油絵科だったんですが、はじめは版画を勉強したかったみたいです。でも途中でやめてしまったんですよ。

・・・それはなぜですか。
どういう絵にしたいのかわからなくなったからなんです。版を作っているうちにわからなくなってきて。

・・・お体がご不自由だから、大きな絵作品を描くのは大変ではないですか。
それは生きているあかしですから。
お母様:「元気だったらやっていない、どこでも行ってしまうから」と言っています。

・・・あれだけ生き生きとした線を描けるのは、体中にエネルギーがあふれているからですよね。気持ちを込めて描くというのはとても大切なことだし、いまそれを皆が忘れているような気がします。これからの目標というのは、ありますか。
ひたすら淡々と描き続けるだけです。あまり目立ちたいとも思いませんし、淡々と過ごすだけです。日記のように描ければいいかなと思っています。小さい作品は構図をすごく考えて決定してやらないと失敗してしまうけれど、大きい作品はある程度自由に動かせるから、編物をするように描いていきます。

・・・あるところからスタートして、ずっと描いていくと、つじつまを合わせるのは大変ではないですか。
会わなくてもいいんです。それはその日の気分ですから。作品を1枚仕上げるのに、ものすごく時間がかかるんです。

・・・それはそれで楽しいのではないですか。
つらいです。今描いている絵もお母さんと喧嘩をしながら、「なんでこうなの」と言われるけれど、自分の中でがんばって話をまとめようとする気持ちは凄くあるんだけれどうまくいかない。何故なら自分は今を描こうと思っているからなんです。

~28日(日)まで。