市川裕司展

市川裕司展 -genetic-
2008年9月1日(月)~9月6日(土) 11 : 30~19:00(最終日は17 : 00まで)
銀座コバヤシ画廊 東京都中央区銀座3-8-12 ヤマトビルB1 TEL03-3561-0515

【展覧会詳細】
 岩絵具を中心とした白色顔料を、樹脂膠を用いてボックス状の透明アクリル板に描画。その画面体を空間へ立体的に展開した大型作品を一点、アクリル板を支持体とした大型タブロー1点を展示予定。複雑に反射・透過する対空・対壁画面表現が作り出す多彩なイリュージョンが演出されている。

【コメント】
 geneticとは、生となり得る事象が未だ形を胎蔵し、定められたその時間と空間に対峙するために命の姿をイメージし続ける様である。果てしなく繰り返す生存への葛藤のように、次の命を与えんと試みた一筆の末路は画面からはなれる瞬間に決まる。それは瞬時に遠い過去へと葬られるものなのか、また未来を予感しうるものなのか。ごく近視眼的に生み出されたかたちのもとは活路を求めて挑戦し続けた多くの死でもある。いのちの海で創造され続けた生の軌跡、それはまるで太古の地層に封じられた命の記録をみているようである。

D 366×274.5cm(平面時) 2008

D
タイトル ”D” はギリシア文字Δ(delta)の頭文字からきている。それはあらゆる角度において三角形を印象づける形態感、また女性の陰部という意味もあり、生命の揺りかごを表現するgeneticをそそぎ入れる器として結ばれている。

D (部分)
コバヤシ画廊2007(参照)

genetic trans 6 194x405cm 2008

trans
平面作品であるtransの制作は損保ジャパンの選抜展出品を契機に、立体で行なってきたgeneticの表現をタブロー平面へ移行する取り組みである。主に立体が有した箱状2枚の面は1枚となり、3次元バックグラウンドは和紙へと圧縮された。

増殖と飽和
 同じリズムとテンションを与えた平面と立体が、同一空間での対峙によってその面貌を大きく変えたことは予想だにしない大きな収穫であった。平面は描画が図へと回帰することを強く望み、一時の安堵に浸らせてくれると同時に図としての欲求を問いかけてくる。一方で立体は反復行為によって飽和しかけた描面の密度を図ではなく透明支持層という構造における最適化を追求してくるのだ。両者の異様な意識の交錯が空間を摩擦し、鋭敏な緊迫感から解放するものとなったように思う。殊に筆触による両面の波長を同一時間軸に合わせることで密度を硬化させた今回の立体は、グラスにコインを入れ続け表面張力で盛り上がった水の様であった。

 そして私に迫られた次の一手は無論、グラスの水を溢れさせる一枚のコインである。