若林奮 - ポートフォリオ52記 - 版画展

2007年1月15日(月) 〜 27日(土)

11:00-19:00

Gallery OII

東京都大田区中央3-2-16

tel:03-5709-4270

--関連情報--

若林奮氏 略歴
1936 東京都町田市生まれ
1959 東京芸術大学美術部彫刻科卒業
1960 第45回二科展出展、二科45周年記念賞受賞
1962 二科展、金賞受賞
1968 インド・トリエンナーレ出展
1973 個展 神奈川県立近代美術館「若林奮デッサン・彫刻展」
文化庁芸術家在外研究員として渡欧(フランス・パリ)
1980 ヴェネツィア・ビエンナーレ出展
1986 ヴェネツィア・ビエンナーレ出展
1987 個展 東京国立近代美術館、京都国立近代美術館「今日の作家 若林奮展」
1988 個展 北九州市立美術館「若林奮:1986.10− 1988.2」
1990 個展 町田市立国際版画美術館「若林鬼 .版画・素描・彫刻展」
1995 個展 東京国立近代美術館「若林奮一素描という出来事」
1996 個展 足利市立美術館、郡山市立美術館、山形美術館「煙と霧一若林奮展」
第27回中原悌二郎賞受賞
1997 個展 名古屋市美術館、神奈川県立近代支所館、大原美術館、高知県立美術館
「若林奮1989年以後」
個展 ISAMU WAKABAYASI」マンハイム市立美術館/ドイツ
1999 多摩美術大学教授となる
2002 初の回顧展 豊田市美術館「若林奮個展」
2003 芸術選奨文部科学大臣賞受賞
個展 川村記念美俗館「若林奮 振動尺をめぐって」
10月10日 死去

「若林奮は1960年代に鉄を素材とした彫刻制作をはじめ、亡くなる2003年まで木、銅、石などのさまざまな素材を手がけて美術家として独白の空間概念を打ち出してきました。
 そして彫刻と平行して膨大な版画作品を制作しています。その数は600点を超えるもので、技法は謄写版、木版、銅版、シルクスクリーンなどあらゆる版画技法に挑んでいます 」(Gallery OII)
 
今展では、「52記」の銅版画ポートフォリオを展示するにあたり、「52記」の刷りを実際に手がけられた鈴木雄次(銅版画鈴木工房主宰)氏にお話をお聞きしました。

鈴木氏は 林グラフィックプレスで、1980年から銅版画専門の刷り師として数多くの優れた版画家、画家、彫刻家の版画制作に携わり、林グラフィックプレスの林氏の体調不良により2002年5月に工房を閉めてからは刊行物等の後を引き継がれました。現在は作家として活躍されています。

 

・・・林グラフィックプレスは、林健夫さんが1969年に設立され、池田満寿夫や瑛九の版画を数多く制作されたとお聞きしたことがあります。

瑛九の版画集は後刷りと言って、瑛九本人が刷ったものではなくて林グラフィックプレスで刷ったものなんですが、瑛九自身も刷っていない未発表の版も刷っているんですよ。それは「瑛九・銅版画 SCALET〜X」というタイトルで、銅版画作品278点(未発表作品130点を含む)のかなり膨大なものでした。僕はそれを見て林グラフィックプレスを知って入社したのですけれど、入ってから刊行物を作ってることを知りました。

・・・今回展示された「52記」について少しご説明して頂けますでしょうか。

「52記」シリーズは、1988年に制作がはじまり、版はその5、6年前に若林さんへお渡しています。52作品+拾遺9作品で全61作品あるんです(今展示は「52記」のみ販売)。紙は版画紙ではなくとサチネという水彩紙を使っています。林グラフィックプレスの林さんの意図としては、はじめは10点くらいのポートフォリオを考えられていて、それをシリーズで刊行しようと思われていたのではないかと思うんですよ。でも若林さんがもう少し加えたいということで、長い間に52枚の作品ができてしまい、先生が一冊のポートフォリオとして出して欲しいという要望をされたのです。

・・・若林さんが直接版に刻線されて刷りを鈴木さんがされたということでしょうか。

ええ。刷ったのは私ですが、当時は腐食専門の人と刷り師とに分かれていました。はじめはエッチングで防腐膜を塗りデッサンみたいな軽い感じの物を作り、それにビュランで描き加えてドライポイントを少し強めにするというように、先生が直接その場に立ち逢われたこともあるんですけれど、版をアトリエに送りまして刻線して頂き、またこちらで腐食してから、試し刷りを見て頂くような形で進行していきました。そういうやりとりを何べんか繰り返しましたので、時間的にはかなりかかっております。 ただ若林さんはここの刷りはこうして欲しいという指示は一切されなかったんです。

・・・一般的にはいろいろな指示が飛ぶように思いますけれど。

作家によってはいろいろと指示される方もいらっしゃいますけれど、若林さんはそうは言われなかった。例えば「52記」の中には、色が違う作品も何点か含まれているのですが、(その点についてよく覚えてはいないのですけれど)色は若林さんの指示というよりはこちらで決めたのではないかと思うんです。ですからそういう意味でのこだわりを感じることはあまりなかったですね。むしろ版の行き来を物とモノとのやりとりとして考えられていたのではないかと、感じた方が多かったと思います。

・・・物とモノとのやりとりというのは、場所と存在の両者を繋ぐ重要なキーワードかもしれませんね。「52記」の中の人物のいる画面を拝見していて感じたんですけれど、若林さんは「人」と「対象物」を隔てる空間の距離を常に感じておられたのではないかと・・・存在というのは認識がなければ顕現しないわけですから、そういう関係性の中で揺らいでいる接点を描かれたのではないかと思うのです。

刷りをしていてそれは常に感じていました。むしろ身体で感じたというか。私も若林さんの作品が好きですから、かなり線を損ねないように刷っていました。ただあまりにもきれいに刷り過ぎると言われたこともありましたけれど・・・ある日若林さんから電話がかかってきまして・・・。何か悪いことをしたのかと思ったのですが、そうではなくカタログレゾネに名前を出していいかという承諾でした。若林さんの作品は一つの版でも、林グラフィックプレスで刷ったものと、エディションワークスで刷ったものが存在しています。刷りも感性ですからその版によって、インパクトがあるように刷ったものと、線を大事に刷ったものと二通りに分かれるわけです。

・・・ちょっとした違いは刷りをされる方のセンスなんでしょうね。若林さんの場合、饒舌に語るよりも、もっとシンプルに核の部分だけでいいということなのではないのですか。

私の場合は指でインクを損ねないように拭いていくんです。ドライポイントは特に中指を使うと繊細に刷れるんですよ。刷っている内に段々と版と一体化してくるといいますか。傷を撫でてしかも一番最初に刷ったものを見るのは私なんです。そういう快感はありました(笑)

・・・ただ「52記」を拝見してると若林さんの他の作品に見られるようなドスンとした存在感のある堅いイメージというよりは、例えばヤシの木に風が流れているような軽やかさを感じます。作家の眼差しといいますか。思考を通して見ていたであろう情景が現前してくるというか。

若林さんは、やはり彫刻家ですから空間を捉える力が凄いですね。臨場感のある配置がとてもうまい方だと思います。作品のイメージについての細かい話しをしたことはあまりありませんが、この52枚は日記と同じで1日1日の記憶の痕跡みたいなものだと思いますね。むしろわりと好きなものを描いていらしたというか。以前「僕はヤシの木を描いてみたかったんだ」とポツンと言われたことがあるんです。飛行機を描いた作品でも、「僕は絵は下手なんだけれど、昔から飛行機が好きで、飛行機を描くのは得意だったんです」と言われたのを覚えていますよ。画面の中に猫が描かれているのもあるんですが、畑猫といって可愛いがっておられました(笑)。

・・・この猫を見ていると、「I.W若林奮ノート」にあった洞窟の壁に一本の線を引くという言葉を思い出しました。それは人類最古の造形作品の線刻に関するものなんですが、ここに刻みつけられた線は描くという最初の衝動を刻印しているように思います。

確かにそうかもしれません。以前エジプトに行かれたときに、普通の石を拾って来られて版画(ノート・鮭の尾鰭II)にしたものがあるんです。さりげないものなんだけれども凄い存在感があった。今回は机の上に置くような形で展示されている作品もありますが、若林さんは、例えば垂直方向に於いてもというか、紙の上の線にも厚みを見て、作品をひとつのモノとして存在させるということを大事にされていたんです。実際に彫刻でも鉛の板をとめたものとか、振動尺というシリーズでは、紙の一編を中に閉じ込めてしまったものなど制作されていますからね。そういう意味で、今回の展示方法は面白いと思いますね。壁面に展示された作品を外から見ると、漂っているようなイメージも感じます。(額装の中に閉じ込めてしまわないように浮遊感を出そうと思いました。ギャラリー OII )

・・・若林さんは、とても男性的な作品を制作された方だと思います。真っ直ぐで直線的というか。

本質はまじめな中学生みたいな直線的な面があったけれど、実はジャコメッティはもちろんだけど、マチスやマイヨールが好きだったんです。当時林さんのところに、マイヨールの木版で「ダフニスとクロエ」が三種類あったのですが、それぞれ凄くきれいな逸品ぞろいで、若林さんはとても欲しがってその中の一点を買っていかれたのを覚えています。
ある意味この「52記」は、そういう若林さんのイノセントな側面が垣間見れるように感じますね。

今日はどうもありがとうございました。

〜27日(土)まで。

(c) Gallery OII